あの日、階段の向こうに見た大きな


                   一.

 暑かった。晩い夏は暑かった。
 だが少年は駆けた。頬や背中に汗の滴が流れるのも構わずに駆けた。今日を逃がしたら果たせない、そう思ったからだ。
 海に囲まれた小さな島に少年は育ち、島にたったひとつの小学校に通っていた。六回めの夏休みが間もなく終わろうとしている。
 六年も通って、学校のことは何でも知っているはずだった。行ってはいけないことになっている裏山に通じる塀の抜け穴の場所も、裏山の上から眺める島の風景も、校内で一番背が高い楢の木の天辺からは何が見えるのかも知っている。しかし、まだ知らないものがあった。
 木造校舎しかなかった学校に建てられたばかりの鉄筋校舎。はじめての四階建て。六年生が最上階の教室を使っている。そこの窓からは港よりももっと遠くの海までが見えた。木の天辺とは違う風景だった。だがこの校舎には六年生が使っている四階よりももっと高い場所がある。屋上である。
 屋上にはまだ誰も行ったことがない。四階から屋上へと通じる短い階段には昇ってはいけないことになっていたし、その先にあるドアノブが付いた扉にはいつも鍵が掛かっている。教師たちの眼を盗んで禁じられた階段を昇りきったとしても、扉を開けて階段を越えた向こうを見ることはできなかった。
 いったい、何があるのか。常に扉を閉ざして階段に足を掛けることすら禁じる理由は何なのか。生徒は誰一人知りはしなかったし教師に訊ねてみても確かな答えが返ってくることはなかった。短い階段の向こう側には「謎」や「秘密」といった名前が付いて尤もらしい怪談の種になったりもした。
 少年の好奇心はひどく疼いた。夏の暑さはそれを徒らに煽り、強い陽差しは理性を眩惑する。夏休みの午前中だけ開放されるプールで泳ぎ、心地いい気怠さを感じていた少年の身体は自宅で用意されているであろう食事を求めていたはずだが、彼は直ぐに下校しようとはしなかった。
 プールを離れ、校門からも離れ、用事などないはずの鉄筋校舎に近付く。そして見た。夏休みの間は閉ざされているはずの校舎の入口のシャッター扉が開け放されているのを。
 いまだ! 思ったときには既に少年の足は駆けはじめていた。
 休みの間は一切の窓が閉め切られ、夏の陽光に晒され続ける鉄筋校舎の中には熱がこもっていて、吸い込む空気までが熱い。照明が点いていない暗い廊下を辿って一階から二階への階段に足を掛ける頃には少年の身体は汗でじっとり濡れていた。それでも駆けた。
 少年は一学期の間ずっと最上階の教室を使っていて、だから階段を昇ることには慣れているはずだった。しかし混凝土造りの建物の中にこもった熱気は予想外に彼を消耗させた。
 泳いだ後の身体に幾らかの疲労が残るせいもあってか、三階辺りで少し視界が揺らいだ。汗が流れて白いランニングシャツがぺたりと背中に貼り付く。足を休めようとは微かにも思わなかった。
 四階の床を踏む。そこから上は秘められた領域だ。息を弾ませ、汗を滲ませて、少年は階段を折り返した。更に上へと続く最後の階段はいつもは暗いのに、今日は光が差している。空気が流れていた。
 短い階段を見上げる。見たことがない光景があった。常に閉ざされていた扉が開放されて、階段の向こうには眩い光に満ちた空間が四角く口を開けている。向こうから差し込む光が強すぎて、何があるのか窺うこともできない。
 開かれているのに、閉ざされているときと同じく階段の向こうには、何が待つのか判らない。それを思うと少年の足は少し軋んだ。ほんとうに行くのか。声なき問いがあった。
 戸惑いに足が緩む。だが少年は踏み出した。今日を逃がしたら果たせない、そう思ったからだ。
 短い階段を駆け昇り、その向こうへと少年は飛び込んだ。長く続く閃光の中にいるような眩さと渦のように押し寄せてくる熱、そして乾いた風が一斉に全身を取り巻き、彼は眼を伏せてしまう。
 眩しさにやられないようにゆっくりと、伏せた眼を開く。頭上に果てなく広がる蒼穹と、足許には薄い灰色の混凝土の地面、限られた地面を囲む金網、そして―――黒い大きな影。怖れるようにそっと開いた眼にはそれが映った。
「広之進か。」
 低い声が誰何する。老いた男の声だ。数歩を隔てた正面に立つ影の声なのか。夏のはげしい陽差しのせいで容貌がはっきりと判らない。背が大きく、ごつごつと幅が広い人型としか見えないのだ。
「広之進だな。」
 低い声がもう一度呼ばわる。それは確かに少年の名だった。どうして自分の名を知っているのか。広之進は乾いた喉に無理矢理唾を呑み込んで、眩しさにまだ慣れない眼を見開いた。
 影は帽子を被っている。麦藁帽子だ。カッターシャツとスラックスと、歯がすり減ってほとんど草履のように平たい下駄。それを身に着けた男が仁王立ちに立っている。白い半袖から突き出た一双の腕はごつごつとして太く、如何にも腕力がありそうだ。
 広之進は、この男を知らない。
 小さな島で生活する者たちの数は限られていて、島の大人たちのうちに広之進が顔を知らない者はない。では眼の前にいるのが島の男ではないかと問われたら、島人ではないと言い切る自信は、広之進にはない。
 潮風と陽に焼けて褪せそうにない肌の黒さや船の操り方が染み込んでいそうなごつい腕や、先刻耳にした潮で潰れかけたがらがらの声は島人に独特のものだ。それに、男は「誰だ」とは問わずに「広之進か」と訊ねた。広之進が知らない男は広之進を知っているのだ。
 ぜんたい何者なのか。人間の姿をしているが、人間なのか。この場所の「謎」や「秘密」を尤もらしく語る怪談の中には、この場所には小さな社があって鬼を封じてあるだとか、人ならぬものが棲みついているだのという話もある。鬼だの人ならぬものは扉を開けて現れた人間を捕って喰うという話までも広之進は聞いたことがある。
 焼けた混凝土の上に揺らぐ空気を掻き分けるように男は近付いてくる。広之進は身を硬くした。頭の上からは夏の太陽がじりじりと照りつけ、足許からは混凝土が太陽の熱を輻射してくる。暑いと言うより熱い。しかし広之進の背すじを伝い下りる汗はひやりとしていた。
 歩み寄る男の太い腕がぬっと自分の方に突き出てきて、広之進は声を上げた。
「うわあああっ!」
 背を向けてもと来た道を一目散に駆け戻ることができなかった訳ではない。だが広之進は正面に迫る黒い人影に向かって突進をはじめた。草履履きの足で混凝土を蹴りつけ、全身で突き進む。「逃げる」という選択肢は頭に浮かんでこなかったのだ。
 どん、と頭と肩が弾力のある壁にぶつかった。かと思うとその途端に身体はひっくり返って、広之進は背中から混凝土の上に落ちた。宙に浮いた、と思う暇もなく、何が起こったのかも直ぐには判らなかった。
「立て。」
 太い声が降ってくる。広之進はいつの間にか閉じてしまっていた両の眼を開けた。胡麻塩の髭もまばらな陽焼けた顔が、地面に仰臥している自分を上から覗き込んでいる。
「向かってきたのは偉いが、これくらいで伸びてちゃいかん。立て、広之進。」
 潮と陽に焼けた赤黒い顔が昔話の鬼を思わせる。屋上の社に封じられている鬼とはこいつのことか。人間を捕って喰うという人ならぬものがここにいるのか。自分の芯の部分がきゅうっと縮んでいこうとするのを広之進は感じた。
 喰われてたまるか。地面から跳ね起きて、身構える。地面を蹴る。鉄砲の弾のように素早く飛び出して、大きな影の腹に食い込む。
 頭の天辺から影に突っ込んだ。広之進の頭蓋や頸にずしんと響く。相手にはもっと響いているに違いない。低い唸り声が洩れるのを聞いた気がした。しかし直ぐに身体の両脇を捕まえられ、広之進はまたもや花札のように軽くひっくり返されてしまう。
 背中から落ちて地面に強かにぶつかる。息が喉に詰まる。硬い混凝土にぶつかって頭蓋がごつんと鈍い音を響かせたが、眼から星が出ずに済んでいるから大丈夫だ。ひどく打ちつけたり打ちどころが悪いと眼から星や火花が飛び散ることを広之進は知っている。
 同じだ、と思った。小学校に通いはじめる前から何度も父親と相撲を取った。体当たりしたときの肉の硬さ、腹の内側から聞こえる音、洩れ聞こえる唸り声、どれも父親と相撲を取ったときにそっくりだ。ぶつかった瞬間と放り投げられる寸前の二度、相手の腹に力が入って硬くなるところまで同じだ。
 誰が鬼か。誰が捕って喰うものか。何者かは判らないが父親や自分と同じ人間であるのに違いない。ならば勝機はある。父親との相撲にはまだ勝ったことがないが、何故だか広之進は自信を持った。身体を起こして、今度は落ち着いて構える。
「勝てると思うたか。」
 夏空の下に仁王立ちの男が言う。広之進の心を読んだかのように言う。
「だが、お前は次もわしに放り投げられるぞ。試してみるか。」
 身体の大きな男は太い両腕を左右に広げて懐を開いた。まるで、掛かってこい、と言わんばかりに。
退がる訳にはいかぬ。負かされる訳にはいかぬ。広之進は草履履きの足で焼けた混凝土を蹴った。ええい儘よ、と眼を閉じて突き進む。
 どん、と音を立てて頭から弾力のある壁に激突する。熱をはらみ、中身がしっかり詰まった堅肉の壁だ。眼を開ければ、堅肉の体躯を包むカッターシャツの白が見えたのかもしれない。しかしその暇もなく、広之進の身体は三度、宙に浮いた。
 ぶつかった途端に身体は強い力で両腋を掴まれ、身体の左半分がぐいと持ち上げられる。あっと思ったときには裏表をひっくり返されて、背中から地面に落ちていた。先の二度とまったく同じかたちで放り投げられたのだ。先程と違うのは、今度はそれでお終いではないということだ。
 足。擦り切れた下駄の裏底を見せて、大きな足が広之進の腹を踏み抜こうと下りてくる。踏み蹴りだ。襲い掛かる気配は察せられたものの躱すべく身体を捻る寸暇もなく、下駄履きの足は広之進の腹を押さえた。
「―――!」
 踏み込まれることを覚悟して、広之進は歯を食いしばり咄嗟に腹に力を込めた。大きな下駄の足に急襲されては己が身などひとたまりもない。
 だが下駄の硬い裏底は広之進の身体を包むシャツに触れたところでぴたりと動きを止めた。痛みも衝撃もないが、広之進の額からは冷たい汗がすべり落ちる。
「どうだ、言うた通りじゃろうが。」
 高いところから落ちてくる声。抑揚を抑えたその声は誇示しているように聞こえて、広之進には多少耳障りだった。大事がなかったところで反撃に転じたいところだが、身体の真ん中を大きな足で押さえつけられているのでは、それも叶わない。
「わしがこの足をどけん限りお前は身動きもできんし、この足を踏むなり蹴るなりでわしはお前を如何様にもできる。生かすも殺すもわしの勝手だ。」
 下駄履きの足は腹の上から動かない。こいつを何とかしなければ身を起こすことすらできない。手足を動かしてどうにか逃がれようともがくうち、広之進は足で踏みつけられていることに次第に腹が立ってきた。
「畜生、おれをこんなめに遭わせやがって、ただじゃおかね……。」
 言い終わる前に足が強く踏み込んできて、広之進は息を詰まらせた。腹から洩れた呻き声と一緒に身体の中身が出てしまいそうだ。
「勘違いしちゃいかんぞ、坊主。ただでおくもおかぬも、そんなことは罰を当てようという立場におる者だけが択べることだ。お前にはわしをただでおくおかぬを云々できやせん、お前は罰を喰らう側におるんじゃからな。」
「離せよ、このやろ……。」
 ごちゃごちゃしたことはどうでもいい。いつまでも踏みつけられていられるものか。広之進は乱暴に怒鳴ろうとした。腹の上の足がぐいと重くのし掛かってそれを阻む。
「坊主、お前は何で自分が負けたのかも判っとらんのじゃろう?」
「坊主じゃねえ、広之進だ!」
「判っとらんな、ようく見ろ。お前には見えとるのか。」
 妙なことを。そう思った。何を言おうとしているのかを考えようとはしなかった。足の下という屈辱的な場所から抜け出そうともがく。手で腹の上の足を掴み上げ、身をよじる。じたばたと必死のその顔の上に何かが落ちた。眼の前が真っ暗になる。
「うわあっ!?」
 何が起きたのかが判らず、上げた声も声にならない。手足がすくんで広之進は暴れられなくなった。動きが止まる。そこで視界が拓けた。
 抜けるように青い空。遠くかすむように白い雲と透明に白く弾ける陽光。そして、強い陽差しを背に受けながら自分を見下ろす男の陽焼けた顔。……見える。
 空がひどく高いことも光を浴びているものたちの影が濃いことも、自分を踏みつけている男の表情が仁王のように厳しいと同時に慈愛に似た色を湛えているのも、この眼に見える。たったいま見ている。
そして気付く。見えていなかったのだ。視界を奪われてしまうまでは見えているつもりで何も見えてはいなかった、見てはいなかったのだと。
「あ……。」
「判ったか。」
 仰臥する広之進が見上げる先で、男は広之進の顔の上から拾い上げた麦藁帽子を被り直した。
「眼の前に何があるのか、自分の眼でようく見ろ。何も見えんままでただぶつかってくるだけでは、お前はわしには勝てん。」
 広之進の腹の上から足が離れる。その足が尻の辺りを軽く蹴った。
「ほれ、いつまでもここにいてはいかん。おとなしく去るがよかろう。」
 こつこつと下駄が硬い地面を叩く音が響いて、男は広之進の眼界から消える。その背を眼で追うように、広之進は首を起こした。
 屋上はさほど広くもない場所だということが見て取れる。その一隅に立ち姿がある。白いカッターシャツと灰色のスラックスを着けてちびた下駄を履き、麦藁帽子を被った老いた男は、校舎の中へと通じる扉とは反対の方向へ何歩か歩いたところに足を止めて立っていた。
「ここへは来てはいかんと言われていたはずだな。……来たことを後悔しとるか?」
咎めるような、説教をしようという口振りではなかった。むしろ何かを怖れる気配を含んでもいたがそれは広之進の知るところではない。応えて、ただきっぱりと言い放つ。
「後悔なんか、するもんか!」
 灼熱の混凝土から身を起こして立ち上がり、広之進は手で尻や腕や脚をはたいた。夏の陽に焼けた混凝土にぴったりくっついていた背中に風が当たって涼しい。シャツが濡れるほど汗をかいている。
「おれは誰も見たことがなかった場所をこの眼で見たぞ。それに、見たことがないおっさんに会った。」
「そして、放り投げられて、踏みつけられたな。」
 広之進は一瞬、口を噤んだ。しかし、直ぐに続けた。
「忘れない。ずっと。」
「それはいい!」
 大きな声で男は笑った。混凝土の地面や壁に反響して哄笑は幾重にも重なって聞こえた。
「何れ、お前とわしとは再会することがあろう。そのときには再び立ち合おうぞ。それまでに強くなって、わしを放り投げてみせい!」
 ほかに人影のない小学校の、誰もいない校舎の静かな屋上に、男の太い声は強く響いた。広之進の腹の底にまで。焼けつく太陽の下で、広之進は負けじと身体一杯に怒鳴ってみせる。
「次は負けない。次に会うときは絶対、おれの方が強くなってるし、それに……。」
 広之進はそこで改めて大きく息を吸い込んだ。両の拳をしっかり握り、腹に力を込める。
「この眼でしっかりおっさんを見る。捕まえる。そしたら、おれは負けない。負けないぞ、おっさん!」
 きっぱりと言い放つ。広之進と男とを隔てるものは、数歩の距離と夏の和風だけだ。両足を強く踏ん張って広之進は男を真っ直ぐに見た。
 いまは見える。男の陽に焼けた赤黒い面貌。人ならぬものの形相などでなく、長い年月を生きて皺を刻んだ威厳の面相。その中で強く引き結ばれた口が開き、告げた。
「よかろう。次があることを祈ろう。わしよりも強くなったと思うたら、そのときはここへ来い。再び会うことが叶おう。」
 男の太い腕が上がって、拳から突き出した人差し指が広之進の方を指した。広之進ではなく、その背後にある扉を指しているのだ。広之進が階段を駆け昇って、その向こうへ、屋上へと出た扉だ。
「再び会うために、いまはここを去れ。」
 もう一度この場所に来るためには、一旦はこの場所を離れなければならない。もう一度会うためには、その前に別れておく必要がある。そういうことだ。広之進は一度、男の顔をしっかりと見据え、それから男が指した方へと踵を返した。
 それきり振り向かなかった。ただ、胸の奥で繰り返した。強くなる。絶対に強くなる。おっさんを越えてみせる。扉をくぐり、階段を下る一歩ごとに、その誓いは強くなった。


                   二.

 暑かった。晩い夏は暑かった。
 以前にもこんなひどく暑い夏を経験した憶えがある。想起しながら古柴広之進教頭は、白髪混じりの角刈り頭から麦藁帽子を取った。
 夏休みの小学校は森閑としていて、校庭の楢の葉陰で鳴く蝉の声だけが混凝土造りの校舎の壁に反響している。蝉の数は減ったかもしれないが、昔よりもいまの方が鳴き方がうるさいと古柴は思う。昔は校舎のほとんどが木造で、こんなにも物音があちこちに反射しながら響くことはなかったものだ。
 あと三日。誰もいない職員室に戻ってきた古柴は口の中で繰り返した。夏休みの小学校にこうして出てくることができるのは、あと三日だけだ。
 四〇年ほども以前には生徒として通った小学校で定年退職の日を迎えようとは、古柴自身、思いもしなかった。人影も失せ、蝉の声だけが響く校内で、光と影とを見間違えたかのような奇妙さを覚える。
 窓を全部開け放しただけで照明も扇風機も点いていない職員室は屋外の日向の眩しさとは対照的に薄暗く、ほかに出勤している職員もなくがらんとして、風だけが緩やかに通り過ぎる。
 その一隅、直ぐ傍で緑色鮮やかに夏の風にそよぐ葉が見え隠れする窓、そこに近い机の上に、古柴は脱いだ麦藁帽子を置いた。椅子を引いて腰を下ろすと、旧い椅子は控えめな音を立てて軋んだ。窓の外では沢山の緑の葉の隙間に陽差しが遊んでいる。
 昼下がり。校内プールの開放は午前中のみで、泳ぎに来ていた生徒たちもいま頃は自宅で昼食を終えているだろう。やり残している宿題がまだ沢山あることを頭の片隅にちらつかせながらも、午後には誰と何処に行って何をして遊ぶのかの計画に余念なく。
 洋服や水着のかたちもくっきりと陽焼けした生徒たちの誰もがきっとそうに違いない、と古柴は午前中にプールで水飛沫を上げていた生徒たちのはつらつとした表情と遠い夏とを重ね合わせた。あの夏、自分もまたそんな生徒の一人だった。
 更に思い出す。夏休みも残り僅かの日に学校のプールで泳いだ。澄んだ蒼穹、跳ね上がる水の滴、弾ける白い光。刺すように強い陽差しと、鳴きやまない蝉の声。そして、自分だけが見た階段の向こう。
 憶えている。小学校六年生の夏休み。木造校舎ばかりだった学校にはじめて建てられた、鉄筋混凝土造りの校舎の屋上は、行ってはいけない、禁じられた場所だった。
 いまも残っているその校舎はやはり屋上を閉ざして、古柴たち教員は生徒たちに立ち入ってはいけないと指導している。いったい何があるのか、何が隠されているのかと生徒だった頃には好奇心を疼かせていたその場所には何があるのかを、いまは知っている。危険があるのだ。
 高い場所は見晴らしがよく気分がいいものだが、眼を眩ませる。怪我や転落の怖れがある。迷い込んで校舎の中に戻らないままで施錠されて閉め出される怖れもある。だから屋上へ行ってはいけない。そこにある危険から生徒たちを遠ざけるために古柴を含めた職員は屋上への立ち入りを生徒に禁じてきた。更にもうひとつ、生徒たちを遠ざけておきたい理由を古柴は隠し持っている。
 幻と現の境いにあるような、ただ一度の邂逅。小さな誓い。あの校舎の屋上には誰にも話したことがない秘めごとがある。
 あの日、誓った。絶対に強くなる。単純で小さな誓いは、しかし確かで強く、忘れ去られることがなかった。
 強くなろうとした。強くなるとは如何なることかを考え続けた。成年になったときも、教える者になったときもずっとそうした。番いになったときも父親になったときもそうだ。
 そうして時を重ね、少しは強くもなった気がする。少なくとも、誓いを立てたそのときよりは。だが同時に立てたもうひとつの誓いは。
 越えてみせる。そう誓った。名も身許も知らぬままの、大きな影の男。彼と等しいほどの年令になったいま、それは果たされているのだろうか。
 短い風が窓から吹き込んで、古柴の短い髪の中を通り抜ける。風の方に眼を向ければ窓外の緑濃い枝々を透かして遠く快晴の空と灼熱の陽光が見える。耳には止み間のない蝉の声。今日という日は、ひどくあの日に似過ぎている。
 自分よりも強くなったらもう一度屋上に来い、と大きな影の男は言った。そうすれば再び会えるだろう、と。幻か現実なのか判別がつかぬほどの旧いできごとだが、確かに憶えている。あの男よりも強くなったという自信は持てぬし、ほんとうに再会が叶うかも定かではない。いまではあの男も古柴の倍ほどの年令になっているだろうから。しかし。
 古柴は掛けていた椅子から立ち上がり、机の上から麦藁帽子を取って頭に乗せた。今日を逃がしたら果たせない、そう思ったからだ。
 いまでは校内で最も旧い建物となった校舎の鍵を保管庫から掴み出し、職員室を出る。板張り床の職員室からリノリウムの廊下に出ると、すり減ってほとんど歯がなくなってしまった下駄は立てる音を変えた。靴に替えるべきかとも考えたが、あまりに暑くて靴下と靴を履こうという気にはなれなかった。
 夏休みの校舎には誰も用事がない。稀れに設備点検などのために業者に立ち入らせることがあるが、それ以外は教室は勿論、校舎の入口もシャッター扉を下ろして閉ざしている。
 鍵穴に手持ちの鍵を差し込んで開錠し、両手を掛けて上に跳ね上げるように持ち上げてやれば簡単にシャッターは巻き上がる。入口が開くと校舎の奥からは熱がこもった空気がゆっくりと流れ出てきた。埃っぽい匂いがする。
 照明が点いていない暗い廊下を辿って、古柴は階段に足を掛けた。少年の日に駆けた階段を、一段ずつ踏みしめながら昇る。閉め切られた校舎の中には空気の流れがなく、吸い込む空気は微温かった。ゆっくり昇っているのに汗が噴き出してくる。
 誰もいない校舎の中にすり減った下駄の足音だけが響く。単調に続く音を聞きながら、何故この男は定かでないものを確かなものに思い、何故そんなもののために長い階段を昇るのか、とまるで自分のことではないように、傍観する者のように、古柴は思った。
 あの日と同じ階段を昇っている。何かに急き立てられる思いで昇った階段は随分長かったように記憶には残っているが、今日の古柴はさほどの時間も要せずに四階までを昇りきった。もう一度折り返して短い階段を昇ればドアノブが付いた扉があり、その向こうは屋上だ。
 この短い階段の向こうには、扉の向こうには、いったい何があるのだろうとどきどきしていたものだが。手持ちの鍵を使って、古柴は扉を開けた。
 長い閃光のように眩い光、それに満たされた風景に眼を細めた。太陽の熱さとそれに焼かれた混凝土が輻射する熱とをはらんだ風が古柴の足許を擦り抜ける。眼を慣らしながら辺りを見まわす。
限りない蒼穹と強く照りつける太陽、陽に焼かれて熱くなった混凝土。見えて然るべきものが見える。それだけだ。見えるといい、待っていてほしいと思ったものは、ここにはない。
「……ここは相変わらず、暑くて敵わんな。」
 誰にともなく呟いて、二歩三歩と歩く。下駄履きの足許にゆらゆらと熱気が漂ってくる。首をまわして遠くにまで眼を渡してみれば、学校の外、島を囲む海までが見える。昼下がりの島は落ち着いていて、海も凪いでいる。
 相変わらず、と何を思うでもなく古柴は口にした。意識の外であの日と比べている。あの日と今日以外にも、ここに来た日は幾らもあるというのに。蝉の声を乗せてやわらかく吹く風の中で小さく息をつく。その背後にせわしい 足音が聞こえた。何者かが階段を駆け上がってくる。
 校舎の入口は開け放したままだ。そこから生徒の誰かが入り込んできたのだと、古柴は思った。足音には重みがなく、身体の小さな者が駆けているのだと窺えたからだ。背後を見返る。白いランニングシャツと丈の短いズボンに草履履きの少年が校舎の中から姿を見せた。六年生くらいだろうか。しかし。
 小さな島の小さな小学校に通う生徒の数は少なく、だから古柴はすべての生徒の顔と名を憶えている。その中にこの少年はいない。それなのに見憶えがあるのだ。まさか。そう思いながら古柴は問う。
「広之進か。」
 思いのほか、大きな声が出た。陽光の眩しさに眼を細めた少年の幼い顔だちに動揺が明らかだ。もう一度訊ねる。
「広之進だな。」
 あの日は確かにこんな暑い日で、夏休みの間は閉まっているはずの校舎の入口が開け放されていた。そうか。こういうことだったか。古柴はゆっくりと広之進少年の方へと歩み寄り、手を差し出した。
「うわあああっ!」
 少年が叫んだ。声には怖れる気持ちと、それを抑えて己れを鼓舞しようという気持ちとが入り混じっている。眼を瞑り闇雲に突っ込んでくる広之進の体当たりを正面に受け止め、古柴は相撲の上手投げの要領で放り投げた。 目方が少ない広之進の身体は簡単に宙に浮き、背中から混凝土の上に落ちる。
 多少、乱暴かもしれぬ。だが男の子というものはこれくらい荒っぽく扱った方がいいのだ。あの日の経験が後の古柴にこう教えた。あの日があったから今日の己れがあるのだと確かめながら、仰向けに倒れた広之進を見下ろす。
「立て。」
 気絶でもしたかに見えた広之進が眼を開ける。すかさず叱咤する。
「向かってきたのは偉いが、これくらいで伸びてちゃいかん。立て、広之進。」
 知るはずのない己れの名を呼んでこの身を乱暴に放り投げたあの男の赤黒く焼けた肌は、鬼を思わせた。昔話の中で人を捕って喰うそれのように己れを捕るのではないか、そう思って必死になった。過ぎた日を忘れてはいない。忘れてはいないからこそ手も気も抜かぬ。全力で向かってくる者には全力で応ずるべきであり、大人は子供を甘く見てはいけないのだ。
 地面から跳ね起きた広之進は再び身体ごとぶつかってくる。受け止めて、躊躇なく投げ飛ばす。儘よとばかりに眼を瞑って突進する子供を捌くことは容易い。見えていない者をあらぬ方向へとやってしまうなどはひどく簡単なことなのだ。見えていない者は己れが見えていないこととともに、それを知らねばならない。
 丈の短い衣服から出ている腕や膝に打ち身や擦り傷を拵えながら広之進は、もう一度起き上がった。型の整った構えをつくったその双眸には敵愾心と、ありもせぬ勝機への確信が見て取れる。見ずともよいものを見て見るべきものが見えていない眼を見据え、古柴は一喝した。
「勝てると思うたか。」
 矮躯を満たしている誤謬は砕いてやらねばなるまい。子供は大人を、大人も子供を、互いに舐めてかかることがあってはならぬ。
「だが、お前は次もわしに放り投げられるぞ。試してみるか。」
 その慢心、挫いてくれる。古柴は両腕を少年の前に広げて構えた。勝たぬ訳にはいかぬ。勝ってやらねばならぬ。子供のために、大人は子供を凌駕する者であらねば。負けるということを体験させてやれねば。
 先程同様、闇雲に突き進んでくる広之進を放り投げ、古柴は強かに地面に叩きつけた。直ぐさま下駄履きの足で仰向けの腹を踏み蹴りにする。
「―――!」
 息を呑む暇もあらばこそ、最早や観念とばかりに悲愴な面持ちで広之進は歯を食いしばる。下駄の底が広之進の腹に当たったところでそれ以上は蹴り込んでしまわぬように、古柴はぴたりと足を止めた。加減の仕方は充分に心得ている。
「どうだ、言うた通りじゃろうが。」
 打撃を受けずに済んだ少年が安堵の息をつく暇も与えずに句を継ぐ。
「わしがこの足をどけん限りお前は身動きもできんし、この足を踏むなり蹴るなりでわしはお前を如何様にもできる。生かすも殺すもわしの勝手だ。」
 敵わぬものもある。むしろ敵うものなどこの世には僅かにしかないのだ。それに気付かねば見えぬ眼は見えぬままだぞ。威圧するさまの隠されたところで、古柴は縋る思いでいる。
 少年はまだ見えてはいなかった。口惜しげに古柴を睨んでいるその眼は実際には相手をも己れをも映してはおらず、だから怖れることもできずに強がりを吐くのだ。
「畜生、おれをこんなめに遭わせやがって、ただじゃおかね……。」
 己れを知らぬ。怖れを知らぬ。それ故に過ちを招こうとしているのだと諭してもいまは首肯すまい。苦渋を噛み砕きながら古柴はまだ少年の腹の上にある足を少し踏み込んだ。悪態が途切れ、広之進は声を詰まらせる。
「勘違いしちゃいかんぞ、坊主。ただでおくもおかぬも、そんなことは罰を当てようという立場におる者だけが択べることだ。お前にはわしをただでおくおかぬを云々できやせん。お前は罰を喰らう側におるんじゃからな。」
「離せよ、このやろ……。」
 小さく罰を受けても失せない敵愾心を動力に広之進は手足をばたつかせて抵抗を続ける。言って聞かぬか。ならば身体に思い知らせるしかあるまい。更にぐいと足を踏み込む。
「坊主、お前は何で自分が負けたのかも判っとらんのじゃろう?」
「坊主じゃねえ、広之進だ!」
「判っとらんな、ようく見ろ。お前には見えとるのか。」
 足の下に敷かれて足掻く少年には判っていない。「見える」とはどういうことか、見えていても見えぬということが判らぬのだ。諭そうとしながらも古柴はそれに気付いていた。ああ、これはまさしくあの日の己れだ、と。
 麦藁帽子を頭から取り、願いを掛けながら、少年の見えぬ眼を塞ぐように落とす。光の中にいては光があることが見えぬ。光を見るために闇に落ちよ。麦藁帽子に眼界を奪われた広之進の身体が無益にもがくのをやめるまで、古柴は待った。
 見えなくなることで見えるようになれ。唱えて帽子を拾い上げる。
「あ……。」
 闇から抜け出した少年の眼が映し出したものは何であったのだろうか、広之進は確かな言葉を口にできぬ様子で、呆然と眼の前を見ている。見えたのだ。確かに、何かが。
「判ったか。」
 何を見たかは知らぬが、見えたものを決して忘れるな。もとの通りに麦藁帽子を被る古柴の身体の中には、遠い夏の日の青い空が広がっている。あの空の抜けるような青さを、決して忘れない。
「眼の前に何があるのか、自分の眼でようく見ろ。何も見えんままでただぶつかってくるだけでは、お前はわしに勝てん。」
 古柴は広之進の腹の上から足を下ろした。まだ幼い、これから幾らでも育っていくのだろう身体を、遠くへやってしまうように蹴りつける。大人の足許ではないところへ行くことができるように。
「ほれ、いつまでもここにいてはいかん。おとなしく去るがよかろう。」
 見えたものの中に何かを見たのなら、そこへ向かえ。ここではないそこへ。そこを越えたところへ。古柴は眼の前にいる少年がかつての己れであると悟りつつ、彼と己れとが相容れぬ者同志であることをも認めざるを得なかった。
 過ぎし日の己れといまここにいる己れとは、違う者なのだ。ともに己れでありながら望むものも目指すものも異にする。しかし、だからこそ、互いを認め、互いを思うのだ。
 ともに年月を過ごし身をすり減らした下駄で二歩三歩と歩き、古柴は広之進少年との間に隔たりをつくった。気掛かりをひとつ、背の方へと放ってみせる。
「ここへは来てはいかんと言われていたはずだな。……来たことを後悔しとるか?」
 遠い夏に、同じことを問われた憶えがある。大きな影の男がこれを問うたことに頷きながら、己れでありながら別の者である少年は過ぎし日の己れと同じことを答えるだろうか、と考える。額から顎の方へと汗が流れ落ちた。今日という日はほんとうに暑い日だ、と古柴は思った。
「後悔なんか、するもんか!」
 腹の底から飛び出してきたと判る声がはっきりと答えた。声の主を振り向けば、倒れていた身体を起こし、草履を履いた足を混凝土に踏ん張って、眩い光の中に立っている。強く拳を握り、揺るがぬ視線をよこす。
「おれは誰も見たことがなかった場所をこの眼で見たぞ。それに、見たことがないおっさんに会った。」
「そして、放り投げられて、踏みつけられたな。」
 体感して間もないその経験は、きっと碌でもない。経験に価値を感じることができるのはそのときでなく大抵、ずっと後のことだ。それを知っている古柴は碌でもないことを指摘してみせた。まだ知らない広之進は一瞬、口を噤んだ。
 しかし少年は直ぐに言った。
「忘れない。ずっと。」
「それはいい!」
 実に妙案だ。古柴は思った。快心の選択だと。忘れなければ、思い出すことができる。
 いまは碌でもないことも後に思い出せば価値に気付くかもしれぬ。無駄なものなど世界にはないのだとまだ知らぬ子供が最善の選択をしたそのことに、既に老いた者は快哉を叫ぶ。哄笑のかたちの快哉を。
「何れ、お前とわしとは再会することがあろう。そのときには再び立ち合おうぞ。それまでに強くなって、わしを放り投げてみせい!」
 果てなく循環する時間の環の中で、再会はそれと気付かれぬまま繰り返される。己れとの対峙が少年にも訪れるだろう。それは随分遅い時期かもしれぬ。だがそれがいつであったとしても、決して遅すぎることはないのだと、古柴はいまこのときに思う。
「次は負けない。次に会うときは絶対、おれの方が強くなってるし、それに……。」
 若い意気と過剰なまでの生命力が潜む未熟な身体一杯に、広之進は疑いなく叫ぶ。
「この眼でしっかりおっさんを見る。捕まえる。そしたら、おれは負けない。負けないぞ、おっさん!」
 眼の前にいる「おっさん」がぜんたい何者であるかは、判らなくてもいいのだ。己れもそんなことを考えていたと古柴は旧い記憶を手繰る。重要なことは、そいつが間違いなくそこにいて、自分がそいつと組み合ったという覆すことのできぬ事実。それがあるということ。事実が決意を確かなものにする。
 古柴と邂逅した広之進は古柴がかつて言ったことを言い、古柴は遠い夏に邂逅した大きな影の男にかつて言われたことを言った。こうして時間は、時間の中のできごとは、無限に循環していくのだ。人はその環の中で生きていく。
 だが、ただ繰り返すばかりではきっといけない。古柴は利き腕を高く頭上に突き上げた。
「天を目指せ!」
 頭上に限りなく続く蒼穹を指して、古柴は言った。かつて言われなかったことを言った。
「天を目指せ、そして越えよ。目標がこの老いぼれを負かすなどと些細なことではいかん、天を目指せ。天を越えた力で旧きものを微塵に砕け!」
 渾身の気迫で対峙する。子供には全力で対抗する大人が要るのだ。全力に迫られ全力に負かされることで、子供は全力には全力でしか対抗し得ぬことを知るのだ。古柴はこれを、あの日にあの男と対峙することで知った。
 真っ直ぐに見据えた正面で、広之進は何者にも打倒されぬ力強さで地面を踏み、ただ一度頷いた。受け止めたのだ。それを間違いなく見て取り、古柴もまた頷いた。それ以上は必要なかった。
「再びここで会うために、いまはここを去れ。」
 校舎の中へと続く扉を示すと、広之進は踵を返した。背を向けて進み、扉を越えようというところで古柴を見返った。
「また来る。」
 引き締まった横顔。怖れも慢心もない。それきり何も言わず、広之進は扉の向こうに姿を消した。夏休みの校舎の屋上に、古柴はまた一人きりだ。
 この日の誓いを、どうかいつまでも。傾きはじめた午後の陽光の中で、見えなくなった背中に向かって内心に祈る。それから、先程天を指し示した手を見た。己れが新たにつくり出した目標を指した手を見た。
 己れがかつて目指したところよりも更に高みを目指すことで、己れを越えてくれるように。己れが果たせなかった望みが果たされるように。この手が最後の望みを果たす道標となるように。
 古柴は蒼穹を仰ぎ見て、再び天に向かって手を伸ばした。その手が掴み取るには、天はあまりに遠いところにあった。

〈了〉

0703081922.Thr.
400字詰原稿用紙換算枚数41.5枚

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